ARCHITECTURAL MAP

Reigenkou-ji Toseian
霊源皇寺透静庵

[insert_navi.htm]

霊源皇寺透静庵

設計:山口隆/山口隆建築研究所
所在地:京都府京都市北区西賀茂北今原町41
用途:ギャラリー及びゲストスペース”
竣工:1998年(平成10年)
構造:RC造(屋根部分はS造)地階2階建

最寄の地図

山口隆建築研究所サイト

ARX-ASIA


Camera:
Nikon F60D 24mm
Film:
FUJIFILM PROVIA100 Professional

作成日:
2000年07月05日

最終更新日:
ページは追記・修正があったときに随時更新しています。
2008年07月12日

作成者:
Mitsuo.K


-

- 霊源皇寺は後水尾法皇が、仏頂国師の位をもつ一絲文守(読み方いっしぶんしゅ)のために御所の清涼殿を移築した勅願寺。そのギャラリー及びゲストスペースを現代建築家がどのように設計したのでしょう?

霊源皇寺は西加茂の西辺りにあります。山際にあるので、かなり坂を上がる必要があります。自転車で行くにはちょっときつい・・行っちゃったけど。
禅のお寺はどこも大体似たような配置をしています。濡縁を通じて仏堂へ、仏堂は3間、仏堂の正面には枯山水庭園が広がる、という具合。ただ霊源寺は天皇と関係の深いお寺ですから、仏堂の間取りが左右逆転するんです。通常、床の間は仏像の右側の部屋に置かれますが、このお寺は反対側にあります。京都の東の地域なのに左京区、西の地域なのに右京区と同じ原理。玉座から見た方向で決まるのです。
もちろん前庭も、玉座から最高の配置となるように造園をするのです。枯山水庭園を縁側でたたずんで見るのも結構ですが、管理上許可されるならば、眺めて本当に最高のスポットというのは仏堂内にありますので、そこに座って見ましょうね。

僕もその最高スポットとなるであろう場所から見てみました。・・・うーん・・・よく分かりませんでした。
日本建築は垂直よりも水平を強調して材料が施されることがほとんどです。また視野も水平移動が多く、この水平視野の日本の伝統建築が今から紹介する現代建築と大きく関わってきます。

さて、透静庵(読み方とうせいあん)。先ほどの枯山水庭園は仏堂の南側、この透静庵は仏堂の東側に配置されています。枯山水庭園と同じように白玉砂利が敷かれたなかに、この奇妙な物体が見えるのです。
建築の勉強をされているかたでしたら、多分雑誌などでご覧になったかたもおられることでしょう。そのとき、どう思いましたか?「お寺にこんなものを作っていいのか?」「建物が埋まってるぞ、おい・・」と思われたことでしょう。僕自身も実際に見学に行くまでは、CGだと信じて疑わなかったんですよ。

でも本当にあるんです。

地上に見える高さは、わずか1000mmのガラス張り。屋根もガラス張り。厚さ10mm透明ガラス、t=10の複層ガラスとt=8の網入りガラスの三層で出来ています。ガラス壁と玉砂利から突出している筒は換気用。毎度現代建築を見るたびに巨大文房具だ!と騒ぐ僕。自己完結型がそう感じさせるようです。今回も、とても無機質でプラグのような形状。パソコンの拡張ボードみたい・・

早速玄関に下りて行きましょう。階段を下りると目の前に打放しのコンクリートの塊が。あー「かたまり」なんて言ってたら幼稚くさいですか?mass(読み方マッス)と表現しましょう。これだけのマッスを浮かせたように見せる。マッスの重量感を感じさせない表現は、現代建築の最大の特徴でしょうか。右の画像を見てください。これはB1玄関前の天井を見上げたところ。先ほどのマッスの隙間から光があふれる。CGではありませんよ。

では中に入ってみましょう。この建物は地下2階建です。今、B1に居ます。壁、床共にまっしろけ!
僕はこのサイトで前に白洋ビル・四条大宮を紹介しました。そのときに「天地が逆さまになってもおかしくない仕上げだから気持ち悪い」と書きましたが、この透静庵はそうなることを計算してわざと真っ白にしちゃっています。ここに居ると平行感覚が無くなるような感じで、たまにフラついてしまうので、壁を触ったりして自分の立っている場所をつい確認してしまいます。偶然そうなったのと計算してそうしてるのでは、ぜんぜん違う。

右を見ても左を見ても足元を見てもまっしろけ!
「普通の世界」を求めて自然と見上げます。前述した「日本建築は水平移動する視点」を思い出してください。この建物は水平に見るものが何にもないんです。廊下もすれ違うことがやっとの閉塞感。じゃあ見上げるしかないでしょう?地上に建っていて水平移動する視線の日本の伝統建築と、地下に建っていて垂直移動する視線の現代建築が同じ敷地に存在しているというこの不思議さ。
和室もこんなの。くどいようですがCGではありませんよ。

さらにB2に下りてみましょう。B1にまして、まっしろけ!
B1とのVoid(読み方ヴォイド。吹抜という意味)があります。人が居ないとスケール感がわいてきませんね。透静庵の設計者、山口隆氏と学生を撮ってみました。山口隆氏の立っておられる場所が部屋の隅である事は、床から判断できますよね?では壁を見てください。上に行くほど壁の角が見えなくなっています。
これが山口氏の設計した世界。

山口隆氏の師匠は安藤忠雄氏なんです。
安藤忠雄の定番ともいえる打放しコンクリート仕上げは、壁でも天井でもその光の濃淡で輪郭がはっきり見ることが出来る。その光の具合によって変化する建物の表情に皆が魅了されて行くのですが、そんな師匠を持つ山口隆氏がモノの輪郭線を圧倒的な明るさによって消去しようとしている。天井を見上げれば空や木々の自然な動きが見えても、風や匂いは伝わってこない。そして白い壁の生み出す、虚構のような人工的のような一次元的な平面性。五感を混乱させる残酷なまでの空間操作。
なんて冷たい空間なのでしょう、なんて落ち着かない空間なのでしょう。

この見放されたまでの厳しい空間に、人は何か安定したものを悟ろうとする。そう解釈するならば、この建物と「禅の教え」に何か共通するものがあるような気がしませんか?ゆえに同じ敷地内にこれほど見た目の違う建物が両立していても、教えや伝統を引き継いだ「精神」はなんら変わってはいない、と思うのです。

建物の続きを見てゆきましょ。引き続きB2。

人がうっすらとスリガラスの向こうに見えているところは、唯一の外部空間。建物の中央に正方形に抜いてあります。B1でもちらりとスリガラスが見えてましたが、あの場所です。
外部に出てみる。キッチンと浴槽が見える。外部空間とはいえ、この建物のど真ん中に位置しているので他から見られることはありません。キッチンにはiMacが置いてあった。

さて、設計した山口隆氏もわざわざお見えになっているのですから、質問してみました。
この建物に入ってB1とB2では明らかに体感温度が違う。見学に行ったこの日はかなり暑い日だったのでクーラーもついている。その冷気がVoidを通じてB2に、そして暖かい空気が上部に流れていると予想。今はB2がひんやりして気持ちが良いが、冬のB2は底冷えするだろうと予測して、山口氏に聞いてみたのです。

「先生、B1とB2の室温が全然違うんですが、
やっぱり吹抜けがあるがゆえに仕方が無いんですか?」

「地下も5mも下がるとね、地熱の方が大きな影響を受けるんだよ。
だからB2階はものすごく涼しかったでしょ?逆に冬は暖かくなるんだよ。」

またひとつ、いいこと覚えちゃったねぇ。カエルの冬眠を想像しながらこの見学を終えたのでした。
あー・・僕もここに住んでみたいなぁ・・とちょっとだけ思ったが1泊でじゅうぶん。

京都府目次に戻る


(C) Copyright 1998 FORES MUNDI All Rights Reserved.