ARCHITECTURAL MAP

浜松市秋野不矩美術館

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DATA

浜松市秋野不矩美術館
Akino Fuku Museum

■基本設計:藤森照信
■所在地:静岡県浜松市二俣町二俣130
■用途:美術館
■主体構造:鉄筋コンクリート造、一部木造地上2階建て
■延床面積: 999.639
■第1・第2展示室:天井・壁/わら入り漆喰,床/籐ござ・床暖・大理石

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最寄の地図
双竜橋の次(北方向に)の二俣大橋を渡り、中央公民館の隣り。
電車利用/◎JR東海「掛川駅」より天竜浜名湖鉄道に乗り換え[天竜二俣駅]下車、 徒歩約15分。◎JR東海「浜松駅」より遠州鉄道に乗り換え[西鹿島駅]下車、遠鉄バス[二俣・山東行] で[新町](約15分)下車、徒歩約5分。[西鹿島駅]よりタクシーで約7分。
車利用/東名[浜松インター]から約40分、[袋井インター]から約30分。


訪問日:1999年10月02日

作成日:2000年02月06日

最終更新日:2006年11月06日

作成者:yamamoto

管理:建築マップ管理人

藤森先生、ラブ。
安藤忠雄よりも、レンゾ・ピアノよりも、コルビュジエよりも、 なんたらよりもかんたらよりも、藤森照信にラブ。

どうしてこんなにラブなのか?
好みの問題なのか、建築を知ってるか知らないかの問題なのか。
そこんところはわからないけれど、でも、やはり好みの問題でしょう。
好きか嫌いか、ビビッとくるかこないか。頭にではなくって、感覚に従いたい。

私の感覚の言うところによると、藤森先生の設計した秋野不矩美術館は「あなたにピッタリよ」 ってことになる。

ヒトの臭いがするわけよ。
これまたエセヒューマニストな感じでみっともないんだけど。するわけよ。するんだから仕方ない。
見える柱は、斧をふるって形つくったかのようにイビツでボコボコしてる。木の節目もボコッと飛び出してる。
外壁、内壁とも、漆喰?塗り後がザラザラに残ってる。ワラも混じって、先が飛び出したりしてる。
「Office」の表示やトイレの女の子・男の子マークも、手書きで色づけた感じ。
そんな人間の手後から、人間の存在を感じることができる。
この柱を力いっぱいはつった人、この壁を猛スピードで塗った人、このマークを楽しげに色づけした人。
そこに居たんだと。人間のつくった建物なんだと。そんな、自分と同じ肌感覚の残る建物は居心地がいい。



順を追って、館外から館内探検。

■館外

美術館専用の駐車場が、美術館下と道路を挟んだ向かい側にある。車を停める。
美術館目指して坂道を歩いていくと、そこはもう美術館と一体化した場所。
道沿いに立つ電信柱は、昔の、木の電柱。てっぺんについてる電球も丸い傘の丸電球。
同じく道沿いの柵は、荒く木を割って作ったような柵。赤瀬川原平氏作の柵もあるそうな。
緑のスペースに置かれた3つ4つの椅子は、色も形も均一でない、丸太を割ったような椅子。
歩いていると、視線は自然と坂の上の方を見上げる。
坂の上、右には杉林。スッと伸びる茶の幹の上に緑がてんこ盛り。
坂の上、左には美術館。木々の幹と同じ色、土と同じ色の壁。それに、石の色のスレート屋根。
下から見上げると建物は、崖に食い込んだ巨大な岩のようで。ガッシリと地面に食い込んでいる。 食い込んで、崖を支えている。

坂を上って徐々に姿を現す美術館。
木の香り。土の感触。それに、雨の日には水の音。雨音とは別の水の音がきっとする。
建物の正面最上部に木の「樋」が2基、生え出ている。
雨の日には、おそらく、その樋から雨水が弧を描いて、音をたてて流れ落ちる。
雨の日、建築は雨と雨音にけぶってはしまわない。ちゃんと自分の存在を主張する、そのための樋と水音。

美術館右前は、芝生のスペース。
どこかの美術館みたいに「入っちゃいけない」とは書かれていない。入り込んで芝生のフアフア感を楽しむ。
美術館左前は、少し雑草のスペース。
バッタ発見。バッタと共に何度かジャンプしつつ、バッタの捕獲に成功。視線を交わしてから放す。

美術館正面は、2基の雨樋の中心を折り目に、左右対称。シンメトリーな感じ。
雨樋のある中央部は、黄色の漆喰壁が長方形に。ハコ型。
漆喰壁の左右は、それぞれ杉の壁とスレートの屋根をもつ三角形なお家風。
折り紙で作れそうな姿。



■館内

入り口は、木の左右両開き扉だけれど、自動扉。
木の扉がガタつかず、あまりにスムーズに動くから、ちょっとビックリ。
入ると、すぐにスリッパに履き替える。ペタペタ。京都のお寺みたい。

入り口左は、スコッと2階まで吹き抜けてる、木のウロのようなスペース。
茶色の柱が縦横に組まれ、空いた場所に、椅子とテーブル。
上から下がっている丸い電気の線は、まさしく木に絡まるツタ。クルクルッと木に巻き付いて丸い電気を灯す。
そして、ウロの中での無駄話に花が咲く。

ウロスペースには窓がある。外との接点。陽の光が入る場所。
そこから、ベランダにでれる。
広くはないけれど眺めがいい。木の柵の向こう側に見えるものは2つ。
右には、天竜の街。竜の川の流れる街。
左には、杉林。今立つ場所と同じ景色をもつ場所。


■展示室1階

1階の展示室に行くには、スリッパを脱ぐ。
スリッパを脱いで、すのこみたいな板間に上がり、右に折れる。
そこは、ござのひいてある、奥にズッーーーと長いスペース。
壁の片面だけに、絵。秋野不矩さんの絵。
もう片方の壁には、所々に小さな窓。あたたかい陽の光がさす。
多分、絵は、通常よりも下に掛けられている。座って見れるように。
ならば、座る。
ござの上に正座、、、したいところだけど、体育座り。
しかし、絵は壁に沿って横に並べられているから、次の絵を見るためには、一度立たねばならない。
立って歩いて座る。立って歩いて座る。立って歩いて座る。。。。。
これは落ち着かない。
いくらゆっくり座って絵を堪能してても、次に行く、 「立って歩いて座る」動作があまりにも機械的な動きで、我に返って少し興ざめする。
ござの感触は気持ちいいのだけれど。

そんなことを考えつつ、さらに奥にある洞穴の入り口のような場所を入る。
ヒヤッ!
一転、床は、大理石?冷たいようで柔らかい感触。
白い、でも真っ白ではない。所々ピンクがかったような、茶けたような、白。 壁も白。天井も白。氷室みたい。って、見たことないけど氷室。
この展示室には、絵が四方に掛けられている。やはり通常より少し下目に。
ならば、やはり座る。
これはいい。氷室の中央に体育座りをしてお尻でクルクル回ると、四方の絵をちょうどいい距離で眺めることができる。
眺める。しかも、ここの絵は私好み。


■秋野不矩

「オリッサの寺院」は、壁一面を使う横に長い絵。
異国の建物、砂埃か?少し建物の下の方がかすんでいる。
壁一面のオレンジ色の異国の絵は、自分がその場にいるかのような。今いる場所は、今いる場所ではないような。
そんな錯覚をもたらしてくれる。

「沼」は、緑の沼の中、黒い牛が円を描いて歩く。泳ぐ。
牛の目は緑で、ドロッと鈍い光を発している。
鈍い光を発しながら、ゆっくり音もなく沼の中を、ただまるく歩き続けている。
それは、何かの儀式のようでもあり、そのままズブズブ沼に沈んでいくようでもあり。
または、生きる目的ない人間が次第に狂気に陥っていくサマにも似て。

秋野不矩さんの絵は、日本女性を描いた涼やかな美しい絵も素晴らしいけれど。
異国を描いた絵には、、、なんだろう?異国の風景が、何か、、、感じるものを増幅してる。 ような気がする。


■展示室2階

2階に行く。
スリッパを履き、2階へ向かう。
やはり、穴蔵の細い通路を歩く感覚で、Office表示やトイレ表示の前通路を通り過ぎ、2階への階段。
階段へのスペースも、2階吹き抜けの、ぽっかり穴蔵。天井から陽の光。
2階への階段と2階の壁は、コンクリート打ちっ放し壁。
企画展示室もあるけれど、この日は扉が閉じられたまま。残念入れず。
首を45度反らせて、天井を見上げる。
天井は木の柵の組み合わせ状態。よくみると、柵の向こうにはいろんなパイプが走ってる。
こういうのって、天井板でピッチリ閉じちゃうよりも、メンテナンスしやすかったりするのかしら?
1階に戻る。


■おわり

おしゃれなカフェやミュージアムショップはありません。
でも、冷水機はあります。ベランダに。冷たい水で喉を潤せます。
はがきや図録は売ってます。そんなカウンターがあります。
カウンターの女性をはじめ、美術館の方はとてもよい感じです。
天竜の観光案内図も置かれていて、道順とか、お店とか、聞けば一緒に考えてくれます。

建築も、絵も、人も、自然で人間らしい。
なんだか帰り際、「ありがとー」と言って扉を出たくなる。



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