プトラジャヤ、マレーシアの首都機能移転都市

マレーシアでは、2020年までに先進国入りをするという「ビジョン2020」を推進しています。これまでの椰子、錫、ゴム、石油などに依存した産業から、IT技術を中心とした付加価値の高い産業構造に転換するため、マルチメディアスーパーコリドール計画のもと、クアラルンプールから、国際空港にいたる約50kmの丘陵地を切り開き、新たなインテリジェントシティとして、新行政都市プトラジャヤ、情報都市サイバージャヤ等を建設しています。

ここでご紹介するプトラジャヤは100%政府出資のプトラジャヤ開発公社が開発・運営するもので、首相官邸および公邸、連邦政府機関の大部分が移転されます。1995年に建設が開始され、1999年には首相官邸が移転、2000年には運輸省、科学・技術・環境省、外務省が移転、2005年までには残りの政府機関すべてが移転し、2010年には住宅や公園等の環境整備などのすべての開発が完了する予定となっています。

ただ、移転完了後も、首都はクアラルンプール(以下、KL)に置かれるそうです。KLには連邦議会が残ることと、交代制とはいえ、王宮があるからでしょうか。ですから首都移転ではなく、首都機能移転であるわけです。

なお、写真撮影はいずれも2002年9月です。





建物名: プトラジャヤ、マレーシアの首都機能移転都市
Putrajaya,Malaysia's new capital city
設計:
所在地: プトラジャヤ
用途: 官庁施設、モスク、住宅、商業施設、他
竣工: 2010年予定



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過密都市クアラルンプール
クアラルンプールタワー展望室から見たクアラルンプールの街並みです。東南アジアバブル崩壊以降、ペースが落ちた感じはしますが、KL中心部は高層建築が林立しています。
朝の渋滞
一方、KL郊外には高層住宅が立ち並んでおり、このように朝の下り線はがらがら、上り線は大渋滞になります。
山と緑と湖
プトラジャヤは面積4,581ha(練馬区くらい)、計画人口30万人の広大な都市です。平らなKLと違い、起伏に富んでいて、水と緑の多い場所です。このあたりはもともと大湿地帯です。このプトラジャヤ湖は人工的に作られたもので、調整池の役割も果たしているそうです。
1.プトラ広場(数字は施設配置図での位置。以下、同じ)
プトラジャヤの中心部がこのプトラ広場です。平面型は円形をしており、中央に13角の星型の池と旗竿が設けられています。一般にイスラムの庭園では水はきわめて重要な要素で、水に対する強い執着を感じさせたりしますが、雨の多いマレーシアでは水はわりとあっさりと使われています。
2.首相官邸1
わが国の新官邸は和風がテーマでしたが、ここではイスラムがテーマのようです。官邸はプトラ広場に面した丘の上に立っています。
首相官邸2
平日であれば、内部を見学できるらしいのですが、この日は日曜日、残念ながら入れません。鉄の門が閉まっています。ここでマハティール首相が勤務しているのですね。
首相官邸3
屋根にインド風のチャトリ(あずまや)を載せていますが、これはマレーシアの近代様式でもあります。イギリスの植民地時代の1900年前後にKLの 官庁施設群が建設されますが、その際にインド・ムガール様式がマレーシアに持ち込まれたといわれています。
首相官邸4
ドーム屋根は色からは銅板のように見えますが、継ぎ目が見えないので、実はコンクリート打ち放しの上に塗装なのではないかと思われます。後述の首相公邸も同様ですが、材料は意外に質素です。
3.プトラモスク
プトラ広場周囲の湖畔に建っています。ピンク色のモスクは珍しいですね。なかなか美しいモスクです。ミナレット(塔)本数は、一般にモスクの規模、格式で決められますが、このモスクはさほど大きくないので、一本だけです。
正門
ここをくぐるとモスクの中庭に入れます。ここから先は、女性は へジャブを被っていないと入れません。異教徒用に貸しヘジャブが用意されています。ここではまだ靴は脱ぎません。
門をくぐると
モスクの正面です。モスクも時代とともに変化しており、現代様式のものも多くありますが、これは古典的な様式です。でも基本形は古典であっても、ディテールはかなり現代風です。
広場
一般にモスクの広場には礼拝前に体を清めるための 水場があるのですが、ここではどうやら地下に設けているようです。このように雨に濡れたモスクが見られるのはマレーシアならではです。
工事中
マレーシアの発注形態がわかりませんが、エージェントがペトロナスツインタワー一帯を開発したKLCC(クアラルンプールシティセンター)社で、他にコンストラクター、アーキテクト、ストラクチュア、機械・電気の請負者名が書かれています。
1階平面図
右側が正門、黄色部分が回廊、赤がミナレット、緑部分が礼拝堂内部です。主ドームはこのロの字型に並んだ12本の柱で支えられています。
回廊
礼拝室正面部分の回廊では靴を脱ぎます。床と柱には赤花崗岩を使っていますが、上部はコンクリート打ち放しに吹き付けです。古いモスクと違って、回廊の屋根の高さが印象的です。
礼拝室入り口
マレーシアでは、異教徒は礼拝室には入れません。入り口からのぞくだけです。わたしが行ったことのある中東や中央アジアの国々よりきびしいです。
内部1
中はまだ工事中で、足場がかかっています。照明器具はトルコ風かな。
内部2
内部正面です。突き当たりにメッカの方向を示すミフラーブが見えます。通常、右隣にミンバル(説教壇)があるはずですが、ここには見当たりません。
内部3
ミフラーブ拡大写真です。仏教やキリスト教の祭壇と違って、ミフラーブ自体は聖なるものではなく、ただの方向を示す印であるそうです。ちなみにマレーシアのホテル客室の天井には、メッカの方向を示す 矢印(キブラ)が貼ってあります。
モスク裏手
周囲を一周することができます。左手には湖が広がっていて、ここから周囲を眺めることができます。
主ドーム
下部のロの字型に並んだ柱に対して、丸いドームが内接しています。この写真からは、柱に対して、8角形、16角形、円の順で、ドームを載せていることがわかります。
そのディテール
一見、ジャギーのようですが、実際にぎざぎざになっているのです。イスラム建築の モザイクタイルは模様の形にタイルを切って嵌めていきます。ところがこのモスクは日本で言うところのモザイクタイル、つまり正方形の小さい色違いタイルで模様を作っています。昔の王様と違って、現代ではコストの制約がきびしいのですね。
4.総理府合同庁舎
官邸の隣にあります。基壇の上に明るい色の上層階を載せたきれいな建物です。
5.食堂・店舗
プトラ広場には多くの観光バスがならんでいました。ここを訪れる人たちのために、プトラ広場の地下にスレラ・プトラという大きな商業施設があります。スレラとはマレー語で食欲という意味です。
店舗内部
土産物屋やレストランなどが並んでいます。多民族国家マレーシアにあっても、ここはマレー人ばかりです。このフードコートは800席もあるそうです。
6.合同庁舎
ここには弁護士オフィス、選挙管理委員会、政府プロジェクト対策本部、科学技術環境省、公共サービス局、調査局などが入居しています。
7.合同庁舎
贈収賄対策機関、イスラム進歩局、人的資源省、外務省、地方開発省、運輸省、会計検査局、道路輸送局、シャリーア(イスラム法)正義局が入居しています。
合同庁舎ごとにデザインがまったく違います。ただ単に設計者を個別に入札で決めたからなのか、いろいろなデザインがあった方がおもしろいと思ったからかわかりませんが、マスターアーキテクトが欲しいところです。
8.店舗
プトラジャヤのショッピングコンプレックス第1号店で、アンジュングという名前です。銀行、フードコート、書店、薬局、カーセールス、タブンハッジなどが入っています。タブンハッジというのは、メッカ巡礼のための援助機関です。
9.プトラ橋
政府地区と複合開発地区を繋ぎ、プトラジャヤの中央大通りを形成する長さ435mの橋です。2層構造になっていて、上層は一般車両、下層にはLRTが通り、さらに橋脚部にはレストランが入るそうです。イランの古都イスファハンの ハージュ橋をイメージしてデザインしたとのことです。
10.副首相官邸
首相官邸と異なり、シンボリックな要素はありません。2000年のマレーシアの政変はまだ記憶に新しいものがありますが、やはり首相は別格なのでしょう。
11.スリ・ペルダナ橋1
周辺地区とコアエリアを繋ぐ長さ370mの橋です。ここからは周囲の湖やプトラモスク、首相官邸、首相公邸などを眺望することができます。スリ・ペルダナとは「輝く最高の」といった意味です。
スリ・ペルダナ橋2
そんな景色のよい場所なので、8つの休憩場所が設けられています。 イラン型モスクのイーワーンを象ったものです。
水上警察署
スリ・ペルダナ橋のたもとにあります。プトラジャヤは道路が完備しているので、水上交通整理は必要なさそうですから、政府施設の警備のためのものでしょう。青白のテント構造がおしゃれです。
12.首相公邸1
マハティール首相の住まいです。湖畔の丘の上に建っています。公邸正面には湖が広がり、遠くには首相公邸やプトラモスクが眺望できるはずです。
首相公邸2
ドームが目立ちますが、これ以外は、イスラムイメージは使われていません。内部はいたって西洋風です。仕上げ材は意外と質素で、外壁は吹き付け、内部も床や壁に大理石などが使われてはいますが、中程度(300×600くらい)の大きさのものばかりで、さほど高価なものは使われていません。
首相公邸3
ここは外来者入り口です。首相用の入り口は別のところにあります。見学者はここでパスポートを窓口に預け、代わりに入場パスをもらって中に入ります。カメラを含む荷物はいっさい持ち込めません。そんなわけで内部写真はありません。
13.警察庁長官公邸
なんだか日本のハウスメーカーのコマーシャルにでも、出てきそうな建物です。 伝統的なマレーハウスとはまったく違います。これが現代のマレー人のあこがれの住まいのイメージなのでしょうか。
14.外務省
なぜか外務省だけ他の官署から離れた山の上に建っています。
15.財務省1
プトラジャヤの中央通りに面しています。かなり大きな建物で、複合開発地区のランドマークとなっています。ほぼ完成しており、什器搬入を待つばかりといった感じです。
財務省2
正面のファサードです。出来の善し悪しはともかく、シンボリックなデザインとなっています。
財務省3
PCaで作られたアーチ型のカーテンウォールです。アーチの内側には細かいグリル状の日よけが設けられています。こうしてみるとイスラミックでもあります。
プトラジャヤ中央大通り
プトラジャヤを南北に貫く長さ約2.5kmの中央大通りです。まだ工事中です。これは財務省の前から北側を見たところです。
大通りの突き当たりは
首相官邸です。シンボリックな都市計画がなされていることがわかります。
19.コンベンションセンター
中央大通りの反対側の突き当たりです。これが首相官邸と向き合うことになります。
16.スリ・ワワサン橋
コアエリアと周辺の居住地区を結ぶ斜張橋です。現在は工事中ですが、プトラ広場からも展望できるため、いずれランドマークのひとつとなりそうです。スリ・ワワサンとは「輝くビジョン」といった意味です。
17.プトラコンプレックス
プトラジャヤでは政府地区と複合開発地区以外はまだどこも工事中です。このプトラコンプレックスには財団法人プトラジャヤのオフィス、オーディトリアム、会議場などが入居します。
18.法務省
法務省、裁判所などが入居する合同庁舎です。完成パースを見ると、中央に大ドームを戴き、その周囲をチャトリで固めたモスクのような建物になっています。首相官邸に劣らず、イスラムを感じさせる施設です。この連続アーチ部分は、正面エントランスになります。完成が楽しみな施設のひとつです。
エネルギーセンター
法務省のとなりにあります。工事現場の人の話では、これはこの地区の冷暖房を賄うエネセンであるとのことです。
20.消防署1
プトラジャヤ&サイバージャヤ駅近くの消防署です。向かって右側が車庫になっていて、消防車数台が留まっていました。
消防署2
消防署のタワーです。どことなくロシアアヴァンギャルドっぽいです。
22.プトラジャヤ&サイバージャヤ駅1(以下P&C駅)
クアラルンプール国際空港(KLIA)とKLを結ぶ鉄道には、途中ノンストップのKLIAエキスプレス線と途中駅3つに止まるKLIAトランジット線の二つがあります。KLIAトランジット線の途中駅のひとつがこのP&C駅です。この駅にはプトラジャヤを循環するバスが来るそうですので、これを利用して回ることができます。もっともタクシー代がそんなに高くないので、KLで英語のできる運転手を見つけて案内してもらうのが楽ちんで効率的だと思います。
P&C駅2
改札口です。この鉄道は速くてきれいで快適なのですが、料金がバスに比べてかなり高いので、空いています。
P&C駅3
切符売場です。「チケットカウンター」と書いてあります。KLIAやこのKLIAトランジット線、KLIAエキスプレス線には日本語のサインが多く見られます。たまには変なものもあって、空港のKLIA線ホームに「空港行き」と書いてあったりしました。
P&C駅4
プトラジャヤでは現在バスに加えて軌道鉄道を整備中だそうです。おそらくこの工事中の高架線がそうなのでしょう。これが完成するとプトラジャヤも見学しやすくなります。
一般住宅
このプトラジャヤの計画人口は30万人といわれています。マレーシアの人口が2200万人、KLの人口が140万人ですから、きわめて大規模な開発であることがわかります。
ただいま工事中
マレーシアでは、ペトロナスタワーや新空港の建設、マルチメディアスーパーコリドールの推進、F1グランプリの開催など、輝かしい未来に向かって突き進んでいるように見えます。その一方で、KLを訪れてみると、都市中心部を闊歩するのは金持ちの中国人で、マレー人は老朽密集化した都市周辺に押しやられているという印象を受けます。洪水やごみ処理、給水なども問題も多いと言います。このプトラジャヤはどのような都市になるのでしょうか。

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作成日:2002年11月15日 最終更新日:2003年2月18日

作成者:じいきえん

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