京都市内でまともな市民プールというのはほとんど無く、あっても中書島にある伏見港プールか宇治の太陽ヶ丘まで行かなくてはなりませんでした。そんな状況で西京極総合運動公園内に国際競技用としても使える本格的な50mプールが2002年7月15日に竣工、20日にグランドオープンしました。
今回は、西京極に新しく出来たプール棟「京都アクアリーナ」を紹介します。

西京極駅と総合運動公園の配置図

京都アクアリーナは、阪急西京極駅から歩いて5〜10分程度の距離です。電車内からも建物の全景を確認することが出来ます。「西京極公園の南、阪急を越えたところ、五条通りから一番奥」と言えばわかりやすいでしょうか。緑色した曲線だらけで半分地面に埋もれている建物が、それです。この曲面壁は地上から見てもよくわかりませんが、そら豆のような形をしています。

京都アクアリーナ配置図

この建物は、仙田満(読み方せんだ みつる)と團紀彦(読み方だん のりひこ)の共同設計です。大半は團氏のデザインが基本になっていると聞いています。どこまで本当の話かわかりませんが、このそら豆は勾玉(読み方まがたま)をイメージしたものらしく、メインアプローチを雷に見立て、神話っぽいコンセプトらしい。ぜったいそら豆だって。
配置図に赤矢印を描いておきました。その方向からの撮影が以下に用意した画像です。

野球場照明塔から京都アクアリーナを望む

そら豆の半分が地面に埋まっていることが確認できます。手前に阪急電車、そら豆の向こう側に桂川が見えています。その川向こうの森になっているところは桂離宮です。
手前の切通しがメインアプローチで、敷地中央にメインエントランスがあります。切通しをはさんで右側のそら豆が50mプール棟、左側の洗濯板っぽく見えてるのは25mプール棟の屋根です。
ともにソーラーパネルを設置しており、その敷設面積(約2000m2)は、2002年7月20日現在で日本最大級です。

陸上競技場からアクアリーナを望む緑の丘からプール棟を見る

西京極プールはコンペで決まりました。
先ほど説明したソーラーパネルに加えて雨水の再利用、つまりコ・ジェネレーション【Co(共同の)Generation(発生)】の採用。加えて、建築工事に出てくる掘った土をそのまま芝生の丘に仕上げたこと、つまり残土(切土)と盛土をプラスマイナス・ゼロ目標にした。実際にはそうもいかないが、残土処分量を限りなく盛土に使ったことは、近隣を走るダンプカーの台数を激減させたことになります。この緑の丘が、陸上競技場から見れば阪急で分断されたこの敷地を西京極総合運動公園の続きであると思わせるように配置されていること。
キーワードは環境に配慮した建築だと考えられます。

造形面では、とても泥臭く洗練という言葉には縁遠い地味なデザインです。
世間では透明だの何とかフラットだの、シンプルと手抜きの紙一重をウロウロする建物がもてはやされる時代です。京都アクアリーナは正統派とでも言いましょうか。自称デザイナーや外国人にはウケが悪いかもしれません。

メインロビーからメインプール方向を見るメインロビーからブリッジを見上げる

メインエントランスからの眺めです。この天井上は緑の丘です。そら豆のメインプール棟壁は傾斜がついており、地面に埋もれた部分もその建物であることを誇示するかのように傾斜壁は最下階まで続いています。メインエントランスは2階から入ったことになり、チケットカウンターなどの受付は1階に行く必要があります。右側の写真で見えているブリッジは、一般客がロビー3階と外部を通ってサブプールに行く渡り廊下です。

メインエントランス前のブリッジ前

メインエントランスの夕暮れ時。
團さんの過去の作品を調べてみると、ブリッジを用いた手法を多く見ることができます。異なるカタチ同士の結合部分をやたらハッキリ強調している様子からして、異種の結合部分に魅力を感じているのではないかと推測できます。それは、後ほど紹介するメインプールと隣接施設の関係にも大きく関与します。

メインプール棟の内部です。建物が緑の丘に埋もれていた部分はごくわずかであり、大部分はこうして外を見渡すことができます。カーブに沿って観客席が配置してあります。
この、そら豆の独特のカーブを表現することが、建築家團紀彦のこだわりの1つであり、面倒くさいことは極力避ける凡庸設計士との大きな違いなのかも知れません。

メインプール内飛込み台方向を見る飛び込み台

メインプール棟の夕暮れ

上の画像は、そら豆カーブを外部から見たものです。建物軸線の先には火迺要慎(読み方ひのようじん)のお札で有名な愛宕山(読み方あたごさん)が見えています。撮影場所は、ちょうど緑の丘の反対側になります。大きな敷地の真中に立つ建築物は、建物をどこから見ても表裏を感じさせず正面にさせる事が目標でしょう。動線計画上、この場所は裏側に相当する場所ですが、そんなことを微塵も感じさせません。そら豆は、そんな課題も見事クリアしているのではないでしょうか。

廊下の外側の柱は斜めになっているので、頭をぶつけやしないか?とも考えられます。それは床材の色を変えて、心理的に端を歩かないような工夫がしてあります。床材が1色だったらどうなるかを考えると、色の効果がよくわかるかと思います。

下の写真は、メインプールとサブプールを結ぶ廊下です。メインプールからサブプールまでは水着のまま移動することができます。奥に見えているのは打放しコンクリート仕上げです。他の白い壁面と違って違和感があるのは否定できません。画像では分かりにくいですが、この部分はそら豆の壁面に相当する部分です。ですから若干斜壁になっています。

ここに施工屋と設計屋の考え方の相違が生じてきます。

メインプールとサブプールの連絡通路

施工屋は長年の実務経験上、同じ空間は統一された色や素材を用いて仕上げることを目指そうとします。しかしここは、そら豆が地面に埋まっている部分の壁であり、設計屋からすれば、「これはそら豆の壁なんですよ」というアピールをすることに執着します。そうでないと、そら豆の存在意義がなくなるからです。そら豆カーブに隣接する所要室には、こういった施工屋と設計屋の溝が発生します。
話し合いは、人としての技量・裁量が求められることでしょう。最終的にこうなってるのですから、設計側が上手く話をまとめたのでしょうか。

サブプール。
プールを直接利用していない人は、ブリッジもしくは1階からサブプール側に行くことができます。プール施設利用者は、専用の廊下から移動できます。

サブプールの天井を見上げるサブプールの天井と壁面の光具合を見る

このページの冒頭で洗濯板みたいな屋根と説明した部分です。ソーラーパネルと天窓の繰り返しが織りなす光。太陽光をフルに活用しているようです。白い梁に映し出される光は、気候によって変化することでしょう。
真面目なスイマーなら、あることに気づくかと思います。それはバック(背泳)がまっすぐ泳げるのか?ということ。実際に泳いで見ましたが、その辺は問題ありませんでした。

可動床が上がった状態可動床が上がった状態でのアップ
可動床が上がった状態

メインプールは0〜3m、サブプールは0.5m〜3.5mまで高さを変更できる可動床です。一般開放時は足が届く程度の水深に設定してあり、競技時にはそれ相応の水深に設定することができます。可動床ならではとでもいいましょうか、冬はスケートリンクになります。

こどもプールとブリッジ

遊具もあります。遊具といえばやっぱり仙田さんの富山県こどもみらい館を思い出します。
画像はサブプール内のウォータスライダーとこどもプールあたりです。黄色に塗られたブリッジもプール内の設備で、サンデッキとウォータースライダーへ行けるようになっています。ガラス越しに見えるブリッジは前述したブリッジです。メインプール、サブプール共にメインエントランスより一層分低い場所にあるのです。
ブリッジや異種形の結合部分に魅力を感じる團さんと仙田さんお得意の遊具が一体化したこの場面は、共同設計であることを一番感じさせる場所かも知れません。

夜のアーチェリー場横通路

夜の京都アクアリーナです。
この場所はメインアプローチからプール棟外周へ行く道です。左側に緑の丘があります。右側の幟(読み方のぼり)は、アーチェリー場の防矢フェンスです。アーチェリー場は、敷地内で最も低い地盤レベルに敷設されています。

アーチェリー場内部

これほど大規模な新築工事ともなると、敷地の変形(造成)により、今までは起こりえなかった災害が起こるかも知れないという懸念への対策をすることが都市計画法で定められています。とりわけ水害対策でしょう。

このアーチェリー場は、調整池(流出抑制施設)の役割を持っています。
集中的な豪雨があった場合、敷地外にすぐに排水するのではなく、いったん水をここに貯めてから徐々に排水をして河川洪水を防ぎましょう、という考え方です。
下の画像に赤矢印を描いておいた大きな桝は、オリフィス桝(Orifice)といいます。ここに敷地内の半分以上の雨水が集まるように設計されており、規定の排水量を超えると弁が排水調整します。するとこのアーチェリー場が水びたしになって行き、地面から30cmで約500m3の雨水を一時的に貯めるのです。30cmとなると、当然建物に浸水します。そのため、建物からアーチェリー場への唯一の出入口には、防潮シャッターが設置されているのです。

アーチェリー場にあるオリフィス桝アーチェリー場にある防潮シャッター
オリフィス桝と防潮シャッター

施設利用の簡単な紹介をしておきます。
プールは800円、スイミングキャップをお忘れなく。トレーニング・ジムとアーチェリー場は500円。すべて中・小学生は半額。メインプールの利用は中学生以上、トレーニング・ジムは小・中学生の利用ができません。プールの営業期間は5月〜9月末まで。プールは夏季だけ営業、冬季はアイススケートになります。4月と10月は施設転換期で休館。11月からアイススケート場になります。
50mプール横にある採暖室は42度前後に保たれており、サウナではありません。「ぬるい!」と文句言わないように。
建物内にはファミレス系値段設定のレストランがあり、ここで弁当も売っています。敷地近辺にコンビニがありませんから、阪急で訪れる人は駅前でなにか調達しておいたほうがいいです。
駐車場は100台、五条通りからみて一番奥にあります。関西電力鉄塔(電線塔)のふもとを目指して行けば駐車場入口が見つかりますが、ちょっと分かりにくいかも知れません。
最近、「駐車場」と書かれた大きな看板が臨時に立てられました。既存のサインは、人が2〜3m先から見るには問題ない大きさですが、自転車や自動車越しの遠くから誘導するサインとしては、何が書いてあるのか判読できません。そこで、運営者側が大きな看板を新たに設置したのです。
これは、明らかにサイン計画の失敗としか言いようがありません。

メインプール

今回の建物紹介では、そら豆という言葉を頻繁に使いましたが、そう見えるので個人的に愛称をつけただけです。正式な愛称は京都アクアリーナといいます。地元の人なら西京極プールという呼びかたをする可能性が高いでしょう。なぜならば、もともと西京極プールというのは存在していたからです。1988年の京都国体のための改修で取り壊されてしまい、再びプールが戻ってきたという印象が強いためです。
また、JR京都都駅ビル以来の大規模な公共建築物であること、仙田満・團紀彦の設計というのが京都圏に少ないことから、建築を勉強されておられるかたにも興味ある建物だと思います。

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建物情報

建物画像
2F客席からメインプールを見る
建物名
京都市西京極総合運動公園プール施設(京都アクアリーナ)
設計
仙田満+團紀彦(読み方せんだ みつる+だん のりひこ)
所在地
京都府京都市右京区西京極徳大寺団子田町44-3
用途
観覧場併設水泳場
竣工
2002年(平成14年)7月
規模
地上3階 地下1階
敷地面積
36000m2
建築面積
791697m2
延床面積
30586.09m2
建蔽率
22%(許容60%)
容積率
85%(許容200%)
構造
RC造一部S造

作成者 Mitsuo.K
個人サイト Mの憂鬱
作成日 2000年08月27日
更新日 2008年07月12日
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